Vol.50 外三合 三節 番外編(まとめ) ~後編

前編に引き続き、番外編のまとめである。
Vol.43~48の索引としてもご利用いただきたい。
また、文章末のコラムでは内家三拳のひとつ八卦掌の成り立ちをテーマとしている。内家三拳とは、太極拳・形意拳・八卦掌を指す。外家拳の代表は少林拳で「剛」を特徴とし、相対する内家拳は「柔」である。

Vol.43 外三合 三節 番外編(その5)

新八卦生成図は、太極図の形がどのようにして形作られたかについて想像をめぐらせた結果、私が独自に作成した図である。
八卦に潜む三の構造(三才)とは何か?八卦生成のエネルギーを通して三才を理解することができる。
また八卦生成に潜む套路の過渡式と定式のエネルギーとは何か?套路(型)の一つ一つの技法は流れを持っており、技法の流れを過渡式という。定式は連続する技法と技法の接点であり、断面図といえる。
八卦流動図と併せて陰陽太極図を比べていただくと新八卦生成図が何故生まれたのかが理解しやすいと思う。
コラムは、数息観の補足として修行者が陥りやすい妄想や現実逃避について注意喚起している。

1_老小架_金剛搗碓
老小架_金剛搗碓(過渡①)

Vol.44 外三合 三節 番外編(その6)

老子の有名なことばによると「一から二そして三」が生まれ、「三」から万物が生じるという。
「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」(道徳経・第42章)

八卦では「太極→両儀→四象→八卦」の「八」から大宇宙の万物が展開される。

八卦の卦は、初爻二爻三爻と三層に積み重ねられた構造となっている。
八卦の文字と卦の記号
「☰(乾)・☱(兌)・☲(離)・☳(震)・☴(巽)・☵(坎)・☶(艮)・☷(坤)」
老子のことばと八卦の構造はどちらも「三の構造」だといえる。
漢字の世界に興味を広げて「三の構造」を観てみよう。
漢字の作りのなかにも「三の構造」があり、品字様(ひんじよう)」と呼ばれる。
品字様とは同じ漢字を「上に一つ、下に二つ」の形で三つ重ねた漢字のことである。

五行それぞれに品字様の漢字が存在している。
木の例: 木 → 林 → 森

次に陰陽太極図と古太極図を並べて比較している。
古太極図をスイカのように八つに分割した図を作成した。
古太極図の8つに分割されたパーツをみると三層の陰陽構造で、陰は黒色、陽は白となっている。形は似ているが陰陽太極図と古太極図の違いを比較すると理解が深まる。

Vol.45 外三合 三節 番外編(その7)

老子の有名なことば「三から万物が生じる」と八卦の三層に積み重ねられた「八」から大宇宙の万物が展開されることと生物の細胞分裂はどのようにかかわるのだろうか?
細胞分裂は受精卵が単細胞「1」であったものが2→4→8と分裂する。細胞はさらに分裂を続け、人間では約60兆個(約37兆個とも)に細胞分裂し各臓器や骨、筋肉などに変化し、一個体としての生物に成長する。中国古代の先人達は、一つの生命に小宇宙を観た。
伏羲は万物を象徴している八卦からより錯雑した変化の世界を表現するため六十四卦を考え、南宋の朱熹は「伏羲六十四卦方位図」を作成した。
ドイツの数学者ライプニッツは朱熹の「伏羲六十四卦方位図」を送られ、自身の考える二進法の構想が易の六十四卦の配列と似ていることに大いに感動したといわれる。

老小架_金剛搗碓
老小架_金剛搗碓(過渡②)

Vol.46 外三合 三節 番外編(その8)

「一から万物に変化」した後に「再び一に帰する」つまり「一に始まり、一に帰す」が次のテーマで、この中にも「三」の構造を観ることができる。
前回、「一刀は万刀に化し万刀は一刀に帰す」や「招式から招法」に至る修行階梯のなかに「三の構造」を観た。
今回は、日本古武術の山岡鉄舟をとりあげ「一刀即万刀、万刀即一刀」の中にも「三」の構造を観る。
中国武術を例にみると「招式→着法→招法」という修行階梯が同じ構造となっている。
また、中国武術の千変万化の技法を学んだ後に最終的に一つの技法に到達した技法を「絶招」「絶技」という。日本語では俗に「必殺技」というが、誰にも真似ができない本人のみの「得意技」である。

Vol.47 外三合 三節 番外編(その9)

前回、中国武術や日本の古武術の修行課程に「三の構造」を観たが、套路(とうろ)の修練の中にも観ることができる。套路とは、一人で演武する中国武術の型を指す。
呉派(呉氏)太極拳では「大架」と「小架」を組み合わせて修行する。
私の伝承する陳氏太極拳・老小架(陳績甫伝)の套路では、老架と砲捶を組み合わせて「剛柔相済・陰陽相済」を会得する助けとすることを第一番目の目的とし、さらに「綿中蔵針」を会得することを第二の目的としている。

老小架_金剛搗碓
老小架_金剛搗碓(定式)

Vol.48 外三合 三節 番外編(その10)

中国武術の分類の一つに外家拳と内家拳がある。
外家拳は少林拳が代表的な門派である。少林拳は、嵩山少林寺を中心に伝えられてきた。
内家拳は、もともと内家拳として生まれたものではなく、外家拳を改変したものとされている。太極拳も太極拳として生まれたのではない。
内家拳は太極拳・形意拳・八卦掌が代表的な門派で内家三拳ともいわれている。内家拳は外家と対比される分類だけでなく「内家拳法」という門派が実際に存在したことが書物『内家拳法』からも知ることができる。

~【コラム】~Vol.4647

創始者伝説 張三豊 Vol.46(前編)47(後編)
張三豊は、中国では伝説的な仙人として崇拝されている。内家拳法の開祖として知られ、武當山を本拠地としたところから武當派としても知られている。


【コラム】

■ 八卦掌の成り立ち

八卦掌は、内家三拳(太極拳・形意拳・八卦掌)の一つとして位置づけられるが、門派の成り立ちは、同じ内家拳の太極拳や形意拳あるいは中国武術の分類とされる北派拳術や南派拳術と比較しても大きく異なっている。
八卦掌の開祖・董海川(とう・かいせん)は、自ら編み出した技術を体系化して弟子達に伝えたのではない。すでに各門派で名を成した高度な技術を獲得していた多くの高手・名手たちが董海川の技術の高さを慕い集まった。すでに別の門派(芸)を会得した(帯びた)修行者が老師の門下に身を投じる意味で、これを「帯芸投師」という。董海川は、彼らに対して、それまでの技術を否定することなく「八卦の理」を以って新たな境地に導いていったのである。今日に伝わる董海川の教授法の一端が書物に記されている。(※)
最初は口授(口頭によることばの説明)のみで説明し、弟子が道理を理解したら、董海川自ら道理を個別に動作を示し、決して套路を表演することはなかった。董海川の物真似を固く禁じたため、弟子の中で董海川の表演する套路を見分した者はほとんどいなかった。
習った弟子達は、各自それぞれ別々の技術を次の世代の弟子達に伝承していった。今日において八卦掌の各系統の技術内容が大きく異なるのはそのためである。

孫錫堃派八卦掌 翻身掌
孫錫堃派八卦掌 翻身掌

私の学んだ孫錫堃派八卦掌は、先代の老師の伝承過程で鷹爪翻子拳の分筋卸骨法(擒拿術)の学習課程が組み込まれている。分筋卸骨法とは簡単にいうと関節技であるが、長い歴史の中で精緻に体系化されてきた。
鷹爪翻子拳は、打突などで相手を倒すだけでなく、盗賊などを捕縛する技術も優れている。鷹爪翻子拳は、清朝において皇帝や貴族を護衛する門派の一つとして採用されたことで有名である。功夫映画で少林寺焼き討ちのストーリーでヒーローが少林寺側の場合、悪役として登場するのが鷹爪翻子拳の使い手なのは、こうした時代背景がある。

【注釈】
(※)郭古民著 『八卦拳術集成』

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