当館で教授している内容について簡単にご説明いたします。教授内容は大きく「基礎課程」と「専門課程」に分けています。以下に簡単に説明します。
「基礎課程」
「基礎課程」はその名の通り、多くの中国武術(以下國術)の基礎的素養を学んでいただきます。
入門されて最初に学ぶのは、北派少林拳から七星梅花派蟷螂門の崩歩拳の套路です。
これは蟷螂拳の学習が目的なのではなく、あくまでも、套路の形を借りて、北派少林拳の立ち方や動き方などを学ぶために行います。
國術には、未経験者には形を作るだけで難しい立ち方や足の形があります。弓式、虚式、仆式、馬式、独立式、七星式といった名前で呼ばれるものです。
(先生の違いによってはこれを「式」ではなく「歩」という言葉をつけて、弓歩、馬歩のように呼称する場合もあります。)
初心者にとっては、要領を守って、それぞれの立ち方でただ立つことも難しいのですが、要求されるのは、動きの中できちんとその立ち方ができるようになることです。
また、多くの北派少林拳では中腰の状態まで腰の高さを下げ、さらには腰の高さが上下しないように一定に保ちながら動く頻度が高いのですが、これも慣れない人にとっては難しいものです。
この段階で行う崩歩拳の学習にはこれらの要求に慣れていただく意図があります。
ですから、厳密にいえば本来の蟷螂拳のやり方とは違うところ(例えば、登山歩を一般的な弓歩で行ったり)もありますが、慣れていただくためにあえて改変して教授しています。
崩歩拳がある程度様になってきたら(ここまで1か月~半年くらい)、次は、福州永春拳から斬紋套とその対打である双花封手を体験していただきます。
これは先に学んだ崩歩拳(北派少林拳)とは異なった、特徴的な立ち方や動き方などを学ぶために行います。
多くの技で低い姿勢(中腰)、大きな歩幅を要求される北派少林拳(崩歩拳)とは異なり、高い姿勢で小さな歩幅を要求します。
加えて、一つ一つの技について、大きく腕を使う事が要求される崩歩拳(北派少林拳)に対し、腕を短く、細かく使う必要があります。
この套路については、套路とほとんど同じ動作で練習できる対打型(双花封手)がありますので、これも合わせて学習します。
この崩歩拳、斬紋套、双花封手に慣れてきたあたりから、「基礎課程」の学習内容が増えていきます。
教授の順番が異なったり、タイミングによっては履修しない事もありますが、以下に当館で「基礎課程」に含むとしている内容を列挙しておきます。
秘宗拳から精忠拳の套路と対打
北派少林拳から風魔棍の套路と対打
十二路潭腿の套路とその対打である双人潭腿
用法事例基礎 単撃・複撃
分筋瑳骨法事例基礎
これらの内容は入門から遠からず履修していただくのですが、練習メニューに入れるタイミングは人により異なります。
「専門課程」に入って、その訓練を行いながら、並行してこれらを履修してもらう場合もありますし、「専門課程」に入る前に一通り履修してもらう事もあります。
それ以外に、拳打(突きなどの腕で行う技)、腿撃(蹴りなどの足で行う技)、コク打(体当たり)の基礎や、站椿(気功法)や甩手(つわいしゅ)といった、体を整えながら武術の基礎にもなるものも練習していただきます。
読んでいただいてわかる通りですが、基礎課程だけでかなりの分量があります。
ここまでの内容に習熟していただければ、かなり動けるようになりますし、簡単な護身術程度であれば、対応可能だと思います。
「専門課程」
「基礎課程」の習熟を見て、大丈夫そうであれば、「専門課程」の教授を開始します。
「専門課程」は師が嫡伝を得ている門派の中から、本人の希望と適正を鑑み、相談して決定します。
以降、便宜的に複数人を集めて教授する場合を除き、ほぼマンツーマンでの教授となり、選択した門派を中心として訓練を行っていきます。
本人の状態を見ながらの教授になりますので、必要に応じて他の門派の練習を課す事があります。
同じ会場に集まっても、各自が勝手に練習を開始し、個別に呼んで、または練習している生徒のところへ行って、各自に必要な指導を行っていくことになります。
同じ門派を専攻していたとしても、進度も違えば、得意不得意も違います。
基本となる套路や用法は共通するものの、理解を深めるために与える課題はそれぞれ異なった物になります。
現在、「専門課程」として選択可能な門派は、陳氏太極拳、形意拳、八卦掌のいずれかになります。
細かく言えば、陳氏太極拳は四つの系統、形意拳は二つの系統、八卦掌も二つの系統から選択可能ですが、「基礎課程」を学んでいる最中に、それぞれ概要を説明をしますし、動きを見ていただく機会も作りますので、会話を重ねながら、専門を決定します。
また、選択した門派に付随する武器や暗器についても教授していきますので、以降はご自身が納得いくまで門下生として練習いただくことになります。
拝師について
「専門課程」の習熟度合によって、見込みがあれば、本人の希望を確認して拝師し、正式な弟子となることができます。
「専門課程」に入った者の全員が拝師できる訳ではありません。
本人の意思と覚悟と適正を観察し、認めた者にのみに声をかけ、國術の正式な後継者となるべく訓練を続けること(ある程度生活を犠牲にしてでも専心すること)にコミットした者のみ拝師を許します。
以降、容易には教授しない内容、先師との契約によって一般には教授できない内容についても、教授することができるようになります。
中国武学への道 編纂担当