Vol.35 外三合 エネルギーの統一 「三幹九節」

前回冒頭で勁の本質を「形」と「勢」とし、この角度から外三合を解説した。
勁を構成する「形」と「勢」の中で「形」を調える意味とは何だろうか?「形」を整えることによって外三合と対(つい)となる内三合の心・意・気を支える容器(器=形)とすることができる。

外面としての器を整えることによって、心・意・気は安定し自然に集中状態へと向かう助けとなる。そのためにも器の形が大変重要な意味を持つ。

外三合は手足・肘膝・肩胯の関節の関係を指しているが、六合と関係の深い「三幹九節」という口訣を併せて観ることによって外三合の理解を深めていきたい。

三幹九節は、外三合の手足に胴体を加えたもので、関節の区分であると同時に気血のエネルギーの区分を指している。
区分とは関節の節であるとともに気血と力の滞りやすい場所のこと。
外面の力の伝達は、筋肉が関節を折り曲げることにより発生するが、同時に力の伝達の滞りやすいポイントでもある。
まず、三幹九節の構造をじっくり観ていただきたい。そのあと理解のためのキーワードを紹介したい。

表 三幹九節

股とは股関節のことを指すが、あいまいな表現なのでここからは、「跨・胯」(こ=クア kuà)を用いたい。

三幹とは、一幹:胴体、二幹:手腕、三幹:脚を表わしている。三幹の中で胴体・手腕・脚それぞれに根節・中節・末節がある。3つの幹にそれぞれ根節・中節・末節という3つの節があることで、九節(3×3=9)となっている。根節・中節・末節を総称して三節といい、三幹九節と同じことを指している。「三幹九節」の中で、外三合は手脚の関係を肩と跨(胯)④⑦、肘と膝⑤⑧、手と足⑥⑨の関係で見ていることがわかる。
「三節」を通して外三合を理解するために「双軸」「階層構造」「連動」(遠心力と求心力)の三つのキーワードで考えてみたい。

図1 外三合方円図
図1 外三合方円図

■「双軸」
図1は、外三合をイメージできるよう作成した図である。
肩と胯④⑦、肘と膝⑤⑧、手と足⑥⑨は、縦・横・斜(対角線)と相互に関係している。筆者の立正式の写真(図3)と比較しながらご覧いただきたい。
まずは、外三合の手と足が合い、肘と膝が合い、肩と跨(股関節)の相互における「縦」の軸が合うことである。左右の両肩と両跨の縦軸は二本ありこれを「双軸」と呼び、背骨の軸とは別の構造上の軸となっている。(図2では縦の黄色太線)
近年、日本では「なんば歩き」「常歩(なみあし)」「二軸」などが日本人独特の身体動作として注目されているが、外三合における「双軸」と比較してもおもしろいと思う。
今回公開することは差し控えるが、筆者の手元に陳氏太極拳と楊氏太極拳の身体操作の違いを示した抽象図がある。それは、私の老師がかつて台湾の潘作民先師に陳氏太極拳の北京架を教授された時に示された手書きの図である。楊氏太極拳の方は一見してわかったが、陳氏太極拳の図はすぐには理解できなかった。老師からも何の説明もいただけず何年も悶々と時が過ぎ去ったある時、陳氏太極拳の手書き図は、双軸と外三合の関係を表わされたものと気がついた。今回紹介する図1と図2は、解読した抽象図を基に一般公開用に私が作成したものである。
三幹九節の説明に経絡上の穴所(ツボ)を示す場合があるが、これは中級以上の見方である。気血のエネルギーは、初心者にとって明確に実感できないため曖昧で難解である。基本は、左右の肩関節と股関節を結ぶ縦の双軸を意識する所から始めるべきで、物理的な力学から関節を認識することが大切である。

図2 外三合双軸図
図2 外三合双軸図

■「階層構造」
次に階層構造となる根節・中節・末節の理解の第一歩として樹木の構造に注目して比較したい。目には見えないが地中に広がり水分と栄養分を取り入れ、樹木を支える基盤となる根(根節)、枝葉と根をつなぐパイプ役で水分と養分の通り道の幹(中節)、幹から分かれて葉に水分と養分を送る細いパイプの枝と太陽の光を浴び光合成を行う葉。枝と葉を合わせて末梢の枝葉(末節)となる。

「根節」
手足の付け根にあたる根節は、樹木の根に相当する。「根幹をなす」の通り、「物事の中心になっていること」「物事の大もと」「根本」「中心になること」などの意味として用いられる。

「中節」
中節は、手足では肘と膝が相当する。樹木の水分や栄養分の通り道と同様に体の中心から発せられる力の通過点となっている。
肘関節と膝関節は、根節となる肩や股関節からの強力な動きと手足の運動制御力をリンクさせる役割を持っている。また、肘と膝はともに力を吸収するクッションのような役割も併せ持ち、膝関節は歩いたり運動すると体重の数倍もの重さを支えているという。

「末節」
私たちは普段、「枝葉末節」(しようまっせつ)(末節=末梢)という言葉を、取るに足らないささいなこと、本質からはずれた重要でない事柄や、大切ではないことという意味で使っている。「枝葉末節」の表面的な目に見える部分に目を奪われてしまい、外見に左右されたり華やかな部分だけが気になってしまうと、物事の根幹、本質を見誤ってしまうことがある。

本当に大切にしなければならない本質の部分や根幹・根元に相当する部分は、樹木では根に相当している。樹木を支えるため地中深く根をはっているので 、普段は隠れて目には見えない。根本は目に見えないため、軽視されてしまいがちである。しかし、議論・文章・行動や仕事において目的を達成するためには、根本のコンセプトが揺らいでは方向性は定まらない。

図3 外三合身体図
図3 外三合身体図

確かに根幹を指す根元と本質の部分は最も重要であるが、枝葉末節は果たして些末で軽視してよい事だろうか?
光合成による有機物の供給なしには、植物は成長することも生きていくこともできない。また、葉は大気中への水分の放出という蒸散の作用は以前より知られていた。
最新の研究では、葉から吸収された水が植物の構造体全体に大きな働きをもたらしていることが注目されている。大木でさえもそのほぼ半分が葉から吸収された水由来の可能性も指摘されている。

「神は細部(ディテール)に宿る」という格言のように細部に至るまで工夫と意識を行き渡らせることは、根本を押さえる事と同じくらい大切である。

武術家としての観点から、三幹九節を見るなら、根節と末節の両面からアプローチすることが重要だと考えている。

■「連動」(遠心力と求心力)
三幹九節においても根節から中節そして末節へと連動して動く事を図1で示している。中心から外に向かって振り出すように遠心力を用いる。あるいは外側から中心部に向けて求心力を用いる。末節から中節そして根節という作用である。
全ての動作は波が伝わるように連動してこそ効率的で大きな力となる。
これから外三合について話を進めていく際にも双軸、階層構造、連動(遠心力と求心力)という三幹九節の三つのキーワードは、基本原理となるのでその都度このページ(Vol.35)に戻って理解を深めていただくと良いかと思う。

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