Vol.43 外三合 三節 番外編(その5)

図① 新八卦生成図
図① 新八卦生成図

これまで本ブログVol.39から始まる『三節の番外編』を通して「三」について考察し、さらに八卦に潜む「三才」を「構造と変化(勢)」から紹介している。中国武術(中国武学)でいうならば構造とは身体の姿勢で、変化(勢)は身体の動きの変化であり、「定式と過渡式」の面からも観ることができる。
今回は、私が考案した「新八卦生成図」(図1)を紹介したい。前回に引き続き文章が煩雑と感じられる方は、発想の元となった「定式と過渡式」の「勢」のエネルギーの図(図2)や陰陽太極図の流動図(図4)を比較しながらご覧いただきたい。図2~4は「新八卦生成図」の説明を補助する図である。

■「定式と過渡式」(図2参照)
定式とは、技法の極まった瞬間であり、同時に次の技法の始まりである。定式は連続する技法と技法の接点であり、断面図といえる。(※2)
過渡式とは、技法の本質の部分である。技法の本質とは、相手をどのように封じ、そして倒すのかというコンセプトを「勢」のエネルギーの中に方向づけされたものである。

図② 陰陽四象八卦にみる過渡式と定式
図② 陰陽四象八卦にみる過渡式と定式

八卦の太極→陰陽→四象→八卦を套路の拳譜だと見立てて、過渡式と定式を八卦の生成図の中に分析してみよう。私たちが目にする八卦の太極→陰陽→四象→八卦のそれぞれの爻は拳譜の「定式」である。「太極」という定式(図2では太極の過渡式の部分は省略)から陰と陽のエネルギー(過渡式)によって変化し「陰陽」となる。さらに陰と陽のエネルギー(過渡式)が働き「四象」、さらに「八卦」へと変化していく。「勢」の最後の断面(定式)が「陰陽」「四象」「八卦」であってオセロのゲームのように盤面の白黒の石の表裏は突然変化するわけではない。変化する勢(過渡式)の一瞬を切り取った断面図が陰陽・四象・八卦という定式である。見えている爻の背後に変化の「勢」を想像するとイメージはより豊かになってゆく。こうした観点が日本人が文章を理解するのに「行間を読む」と表現することにも似ていると考えている。
「勢」について「→四象」や「→八卦」の矢印「→」が「勢」と観ていただければ新・八卦生成図の説明もわかりやすいと思う。

■ 太極生両儀四象八卦図(図3参照)
本ブログVol.41 番外編(その三)で紹介した八卦生成図は、時間の流れが上から下に向かうことから、生成図も上から下に向かって陰陽→四象→八卦と変化している。今回は同じ生成図であるが下から上へと変化する図(太極→陰陽の両儀→四象→八卦)を紹介する。下から上へ変化する八卦生成図は、陰陽の爻が下から初爻→二爻→三爻と積み上げられていることをわかりやすく表現したものといえる。図3~陳鑫著『陳氏太極拳図説』より太極生両儀四象八卦図)

図③ 太極生両儀四象八卦図
図③ 太極生両儀四象八卦図

■ 新・八卦生成図(図1参照)
新・八卦生成図は中心から外に向けて第一層では陰陽、第二層では四象、第三層では八卦と生成発展している。陰陽は上下、四象は四方の上下左右、八卦は八方のように陰陽→四象→八卦をそれぞれの方角にあてはめてみた。変化の方向に矢印をつけると流動図(図4参照)と同じようなエネルギーの流れを反時計回りの「渦」のように感じた。これに「陰陽太極図」をあてはめることができるのではないかと考えた。さまざまな太極図がある中で、太極から陰陽→四象→八卦の生成発展のエネルギーが陰陽太極図の意匠の背景にあったのではないかと仮説をたてたい。

私独自の八卦生成図と併せて太極流動図のエネルギー(勢)と陰陽太極図(図4)を比較して観ていただきたい。「→」を「勢」と観て陰陽からさらに四象そして八卦への発展は、遠心力が働き中心から外に向かう反時計回りの「渦」とは観えないだろうか。八卦生成図と陰陽太極図のエネルギー(勢)が重なって観えないだろうか?
陰陽→四象→八卦は定式(勢の断面図)と観ると矢印(→)は過渡式という図が観えてくるはずだ。

オリジナルの八卦生成図を作成するきっかけは、陰陽太極図はどのような過程でデザインされたのか?なぜ勾玉を二つ合わせたような陰陽太極図になっているのだろうか?という疑問を持ったことだ。

新・八卦生成図に基づいた陰陽太極図は反時計回りとなっているが、この図には他の意味も含まれている。本ブログVol.6『太極拳と易』では、春夏秋冬・朝昼夕晩を時間の変化を時計回りで太極図を観ることができる。陰陽太極図に限らず同じ図の中に視点を変える事によりいろいろな世界が表現されている。
陰陽太極図の他にも来氏太極図や古太極図などがある。太極の世界を表現するために古来よりさまざまな太極図が試作されてきた。武術修行や忙しい日常の合間に古(いにしえ)の先人たちの考えに妄想するのも楽しい時間である。

図④ 太極流動図と陰陽太極図
図④ 太極流動図と陰陽太極図

数息観の補足

数息観は呼吸法の一種で身体を用いる技法と意念の訓練の両方が組み合わさっている。
腹式呼吸で息の長さをコントロールするのは、身体のありかたが重要である。
呼吸と同時に数息観の一から十を数える行法により、意念の訓練を併せて行っている。意念とは心・意・気の中で「意」を制御し集中状態へと導く鍛錬で、私の一門内では「意念のコントロール」と習った。この訓練を通して単なる内面の「意念のコントロール」は単なるイメージや妄想でなく、身体の操作に影響を及ぼし外面に現われる力となっていく。これを「内外相合」の訣語と表現する。

訓練の最初は意識が散漫で集中状態に入ることは難しいが、次第に習熟してくると没頭できるようになる。集中している状態そのものが心地よく、安住することもある。
こうした訓練の際、しばしば妄想にとらわれたり、イメージの世界に没頭しすぎて現実離れしてしまうことがある。専門的には「偏差」あるいは「走火入魔」(そうかにゅうま)といい、方法を間違えたり偏ってしまったために起こる病変のことを指している。
『陽』に偏れば偏執狂(へんしゅうきょう)となり、『陰』に偏れば鬱(うつ)となる。仏教(特に禅宗)においては、座禅(瞑想)などのある種の集中状態の中で幻覚を見たり、特殊な知覚世界に陥ったりすることを「魔境」と呼んでおり、「悟り」や「現実」と誤認してしまうことを厳に戒めている。
武術修行においても現実逃避をして「気」の力だけを求め、実用的な技を身につけようとしない傾向は中国武術に多く見られる。「気」の力を身につけたような錯覚をもってしまうことは非常に危険である。同門の中では効く技も同門外(第三者)には効かない技は催眠術といえる。
もちろん人智を超えたような不思議な現象を武術修行によって獲得することを否定するつもりはない。しかし、最初は現実の実用に耐え得る技術の獲得を大切にしなければならない。

【註釈】
※1 Vol.31 外三合 過渡勢と定式(前編)

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